主文
1 原告の被告に対する,平成14年9月30日付け金銭消費貸借契約に基づく金8万円の債務が存在しないことを確認する。2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求の趣旨
主文同旨第2 事案の概要
1 請求原因の要旨(1) 原告は被告に対して,平成14年9月30日,金銭の借入を申し込み,次のとおりの金銭消費貸借契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
貸主 被告
借主 原告
借受額 金5万円(ただし,受領額は書類代として金3000円を控除された残金4万7000円)
利息 10日毎に金2万4000円(第1回利息支払日は平成14年10月9日)
弁済期 自由返済
(2) 本件契約締結及び金銭授受の際,原告は被告の指示に従って,借受額を金8万円とする金銭消費貸借契約書(甲1号証)及び受領額を金8万円とする領収書(甲2号証)を作成した。原告は,金額8万円は事実と違う旨話したが,被告から強く指示されたため抵抗できず,金額及び不動文字以外の部分を記載させられた。
前記甲1号証及び甲2号証の写しは,契約当日原告には交付されなかった。
(3) 原告代理人は被告との間で話合いを試みたが,被告は前記甲1号証及び甲2号証の写しを原告代理人にファックス送信した上,現実の貸付額(金4万7000円)と異なる金額8万円が貸付元本であると主張し,かつ,これに利息及び遅延損害金を付加して支払えと請求している。
しかし,被告は,平成14年11月25日,話合いの過程で原告代理人に対して「貸した4万7000円を返さないのか」と述べた。
(4) 被告の本件貸付行為は,次のとおり公序良俗に違反し無効(民法90条)であるばかりでなく,被告が原告に現実に交付した金4万7000円は,不法原因給付(民法708条)として原告に返還請求することができないものである。
したがって,原告には,被告に対する平成14年9月30日付け金銭消費貸借契約に基づく金8万円の債務が存在しないこととなるので,その不存在確認を求める。
ア 被告の本件貸付の利息は,元本4万7000円に対して10日分金2万4000円であり,10日間で51.06パーセント,年利換算で186.3パーセントとなり,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(出資法)5条1項,2項に違反し高金利処罰の対象となる犯罪行為である。
イ 借受額を金8万円とする金銭消費貸借契約書(甲1号証)及び受領額を金8万円とする領収書(甲2号証)は,被告が原告を脅迫して作成させたものであり,無効の書面である。
ウ 被告は原告に対して,次のような貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)21条に違反する取立行為を行った。
@ 平成14年10月10日,原告の自宅マンションの玄関及び外壁に「Aの妻Bはドロボーだ」,「金返せ,Aの妻Bへ」,「Bはサギ師でドロボーです」等の文字を書いた張り紙(甲4号証の1〜4)をした。
A 前同日,「お悔やみ申し上げます。入金お待ちしております。C」との電報(甲5号証)を差し出した。
B 原告の長男D及び福島県の原告の親族2軒に対し,電話で本件の支払を督促した(甲6号証の1,2)
2 被告の答弁及び主張の要旨
(1) 原告に対する貸付内容は甲1号証記載のとおり「平成14年9月30日,金8万円を利息年29.2パーセントで貸し渡し,同年10月9日一括返済」というものであり,貸し渡した金員は金4万7000円ではなく金8万円である。
原告代理人に対して「貸した4万7000円を返さないのか」と言った記憶はない。
(2) 本件貸付の利息は年29.2パーセントであり,違法ではない。貸付の際に,原告を脅迫して甲1号証及び甲2号証を作成させた事実はない。
(3) 平成14年10月10日,原告主張のような張り紙,電報をした事実及びこれが違法な取立行為であったことは認める。
原告の親族への督促の電話は知らない。
(4) 原告からは一度も返済を受けていない。
3 争いのない事実
原告被告間で,平成14年9月30日,金銭消費貸借契約が締結されたこと,原告は少なくとも金4万7000円を受領したこと,原告は一度も弁済していないこと,被告は東京都に登録している貸金業者であること,被告が原告主張のような張り紙,電報をしたこと,は当事者間に争いがない。
4 本件の争点
(1) 本件契約の内容(交付された金額及び利息の約定)
(2) 本件契約は公序良俗に違反し無効(民法90条)となるか。
(3) 被告が原告に現実に交付した金員は,不法原因給付(民法708条)として原告に返還請求することができないか。
第3 当裁判所の判断
1 争点(1)(本件契約の内容)について(1) 甲8号証(原告本人の陳述書)ないし甲19号証の4及び原告本人尋問の結果,並びに,弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
ア 原告は昭和60年頃「E」という人物から借りた金10万円について,平成14年8月頃になって至急金12万円を返せと督促を受けたことから,夫であるAや当時自己破産の手続を依頼していた原告代理人にも相談できず,いわゆるヤミ金融から借りてその場をしのごうと考えた。
原告は,平成14年9月6日頃までに,被告以外の合計4社から合計金約13万1950円を借り受けたが,これら貸し主への返済のため夫から預かっている生活費から約5万円,借入金から約5万6000円を使ったため,残金は約7万5000円余りとなり,前記Eへの返済には約5万円近く足りない状況であった。
イ 原告は,平成14年9月27日,自宅マンションの集合ポストに入っていたチラシを見て被告へ電話し,金5万円の借り入れを申し込んだが,被告がすぐに対応してくれなかったため,同月30日再度電話した。同日自宅近くのガソリンスタンドの前で被告の担当者と会うことになり,会ってからは「車の中で書類を書くので自転車を置いてきてください」,「自宅を見たいので案内してください」,「印鑑と夫の給与明細を持ってきてください」等の指示を受け,これに従った後,自宅近くのFの駐車場に止めた車の中で書類を書くことになった。
ウ 車の中には運転席と後部座席に30歳前後の男性が1人ずつ座り,原告は助手席に座った。
運転席に座っていた男(以下「運転手」という。)が金銭消費貸借契約書(甲1号証)を出し,その指示に従って「契約及び保証年月日」欄,「一括返済」欄,「貸付金」欄,「利息」欄,「遅延損害金」欄,「返済方法」欄を甲1号証のとおりに記載し,作成年月日,住所氏名(氏名は3箇所)も記載し,押印した。金額については運転手から「8万円」と書くよう強く言われた。
次に運転手が領収書(甲2号証)を出し,その指示に従って年月日,金額,住所氏名を甲2号証のとおりに記載し,押印した。
エ 運転手は甲1号証及び甲2号証の写しを原告に渡さず,夫の給与明細を見て何かをメモし,原告に長男の名前と電話番号を聞き出した。後部座席の男は,原告を右後ろに振り向かせて原告の写真を撮った。
オ 運転手は,5万円から書類代3000円を差引くと言って原告に現金4万7000円を交付した。
さらに,支払方法の説明として,10月9日に8万円を支払うこと,10月9日に利息分だけ2万4000円を支払う場合はその後も10日毎に2万4000円を支払うこと,振り込むときは朝電話して昼までに振り込むこと,を説明して振込先,電話番号,ファックス番号の記載がある「Cの名刺」(甲7号証)を原告に交付した。
カ 後部座席の男は,前記の書類作成中,車の廻りをウロウロ歩き回ったり,後部座席から助手席と運転席の間に足を投げ出し,ブラブラゆすったりしていた。
キ 原告は,同年10月1日,被告から借りた金4万7000円を前記Eへの返済としてEに支払った。
ク 被告は,本件訴訟提起後である同年11月25日,原告代理人との電話での会話中に,原告代理人から裁判で原告の債務がないことの確認を求めるとの趣旨の説明を聞いて,「何だ。4万7000円は,それは払う気あるの。」と述べた。
(2) 以上の事実関係を踏まえると,被告から原告に交付された現金は4万7000円と認められ,消費貸借契約の要物性に照らすと本件契約は金4万7000円について成立したと認めるのが相当である。
また,利息の約定については,弁済期である10月9日に元利金8万円を支払うか,10日ごとに利息2万4000円を支払う自由返済とするかを原告が選択できるものであると認められる。
しかし,この利息の合意は,10日間で51.06パーセント(24,000/47,000×100)ないし70.21パーセント(33,000/47,000×100),年利換算で1863パーセントないし2562パーセントとなり,出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律(以下「出資法」という。)5条1項,2項による制限をはるかに超える高金利となる。
(3) 被告は甲1号証(金銭消費貸借契約書)及び甲2号証(領収書)を根拠に,これにそった契約内容を主張するが,前記認定にかかる本件貸付時の状況並びに出資法に著しく違反する前記高金利に照らせば,前記各書証は被告において適正な貸付を装うために作成されたに過ぎないものと推認するのが相当であり,被告の主張は採用できない。
2 争点(2)(公序良俗違反)について
(1) 貸金業者である被告の本件貸付の利息は,前記のとおり年利換算で1863パーセントないし2562パーセントとなり,出資法5条2項による貸金業者に対する制限金利である年29.2パーセントの63倍ないし87倍に達する高金利であって,その暴利行為性,反社会性は顕著である。
また,前記認定のとおり本件貸付当時,原告は原告代理人に自己破産の手続を依頼していたという状況に照らすと,原告はこのような高金利となることを全く知らなかったか(無知),あるいは高金利と知りつつも前記Eへの返済資金の入手にのみ固執せざるを得ない窮迫した状況下にあり,貸金業者である被告がこれに乗じて本件貸付を行ったものと推認するのが相当である。
(2) 前記のような反社会性及び原告の状況を踏まえ,出資法が高金利を刑事処罰の対象として取り締まっている趣旨,並びに,昨今の経済不況及び市場金利の低迷を反映した出資法の平成11年改正法による貸金業者貸出金利の引下げの趣旨に照らして考えると,本件のような高金利の根拠となる利息の合意(利息契約)は,暴利行為として公序良俗に反して無効と解すべきである(民法90条)。
さらに,本件の高金利は,金利制限超過の程度に照らして出資法が予定する高金利処罰の対象となる犯罪行為のうちでも特に悪質と評価されるべきものであり,このような利息契約と一体となって密接不可分の関係にある本件消費貸借契約そのものについても,これを一体として公序良俗に反して無効と評価して法の保護に値しないものと解するのが相当である。
3 争点(3)(不法原因給付)について
(1) 被告が原告自宅マンション及びその付近に原告主張のような張り紙(甲4号証)をしたこと,原告主張のようなお悔やみ電報(甲5号証)を出したことは当事者間に争いがない。
甲6号証(電話メモ),甲8号証(原告本人陳述書),甲9号証(写真撮影報告書),甲11号証(A陳述書),証人Aの証言及び原告本人尋問の結果によれば,被告は弁済期あるいは最初の利息支払日である10月9日の翌日である同月10日から,前記のような張り紙等のほか長男,親族への取立行為,夫であるAの職場への電話による取立行為を行っていることが認められる。
(2) 登録貸金業者である被告は,このような取立行為が貸金業法及び金融監督等に当たっての留意事項(業務ガイドライン)上許されないことは十分に知った上であえて行っており,第1回口頭弁論期日においても張り紙及び電報が違法な取立行為であったことを自認している。
そして,このような違法な取立行為を弁済期あるいは最初の利息支払日の翌日から直ちに敢行しているという事実に照らすと,被告には当初から法の規制に従った適正な手続に乗っとった債権回収を行おうという意図は毛頭なく,原告に法律上の義務があるかどうかにかかわらず,原告の無知,窮迫に乗じて,できるだけ多くの弁済をさせ収益を得ることを目的として本件契約を締結したものと推認するのが相当である。
(3) 本件契約の目的を前記のとおりと解すると,このような契約は法の保護を受けるに値しないものというだけにとどまらず,本件契約に基づいて原告に交付された金員は,不法原因に基づく給付(民法708条。しかも,不法の原因はもっぱら給付者である被告にあると解される。)としてその返還請求に法の助力を与えるべきではなく,返還請求権がないものと解するのが相当である。
そして,その結果として,原告は本件契約に基づく返還義務を負わないことになる。
4 まとめ
以上によれば,原告の請求は理由があるから,主文のとおり判決する。
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